紅葉
紅葉(こうよう)、もみじ(紅葉、黄葉)とは、主に落葉広葉樹が落葉の前に葉の色が変わる現象のこと。ただし、読んで字の如く、葉の色が赤変することだけを紅葉(こうよう)と呼ぶ場合もある。
目次
1 概要
2 紅葉のメカニズム
2.1 紅葉の原理
2.2 黄葉の原理
2.3 褐葉の原理
3 紅葉と進化
4 紅葉する植物
5 紅葉にまつわる文化
5.1 もみじ(紅葉、黄葉)
5.2 もみじ(紅葉、黄葉)狩り
5.3 芸術作品
5.4 もみじの天ぷら
6 日本国内の主な紅葉の名所
6.1 北海道地方
6.2 東北地方
6.3 関東地方
6.4 中部地方
6.5 近畿地方
6.6 中国地方
6.7 四国地方
6.8 九州地方
7 脚注
8 関連項目
概要
一般に落葉樹のものが有名であり、秋に一斉に紅葉する様は観光の対象ともされる。カエデ科の数種を特にモミジと呼ぶことが多いが、実際に紅葉が鮮やかな木の代表種である。狭義には、赤色に変わるのを「紅葉(こうよう)」、黄色に変わるのを「黄葉(こうよう、おうよう)」、褐色に変わるのを「褐葉(かつよう)」と呼ぶが、これらを厳密に区別するのが困難な場合も多く、いずれも「紅葉」として扱われることが多い。また、同じ種類の木でも、生育条件や個体差によって、赤くなったり黄色くなったりすることがある。葉が何のために色づくのかについては、植物学的には葉の老化反応の一部と考えられている。
なお、常緑樹も紅葉するものがあるが、緑の葉と一緒の時期であったり、時期がそろわなかったりするため、目立たない。ホルトノキは、常に少数の葉が赤く色づくのが見分けの目安になっている。また、秋になると草や低木の葉も紅葉し、それらを総称して「草紅葉(くさもみじ)」ということがある。
日本における紅葉は、9月頃から北海道の大雪山を手始めに始まり、徐々に南下する。紅葉の見頃の推移を桜前線と対比して「紅葉前線」と呼ぶ。紅葉が始まってから完了するまでは約1か月かかる。見頃は開始後20〜25日程度で、時期は北海道と東北地方が10月、関東から九州では11月から12月初め頃まで。ただし、山間部や内陸では朝晩の冷え込みが起こりやすいために、通常これより早い。
紅葉のメカニズム
普段、葉が緑色に見えるのはクロロフィルが含まれるからである。秋になり日照時間が短くなるとクロロフィルが分解される。これは植物学的には葉の老化反応と考えられている[1]。夏の間、葉ではクロロフィルが光を吸収して活発に光合成が行われる。落葉樹の葉では、気象条件が光合成に適さない冬を迎える前に老化反応が起こる。この過程では光合成の装置などが分解されて、葉に蓄えられた栄養が幹へと回収される。翌年の春にこの栄養は再利用される。栄養が十分に回収された葉では、植物ホルモンの1つエチレンの働きによって葉柄の付け根に離層ができ、枝から切り離される。これによって、無駄な水分やエネルギーが冬の間に消費されるのを防ぐことができる。植物の葉は「カロテノイド」色素などを使って光の害から自分自身を守る仕組みを備えているが、葉の老化過程ではカロテノイドを含む様々な分子が分解されるため、この過程を進める間も光による害から葉を守る必要がある。「葉柄の付け根に離層ができ、葉で作られた糖類やアミノ酸類が葉に蓄積し、その糖から新たな色素が作られる」とする俗説は誤りである。
紅葉、黄葉、褐葉の違いは、植物によってそれぞれの色素を作り出す能力の違いと、気温、水湿、紫外線などの自然条件の作用による酵素作用発現の違いが、複雑にからみあって起こる現象とされる。
紅葉の原理
葉の赤色は色素「アントシアン」に由来する。アントシアンは春から夏にかけての葉には存在せず、老化の過程で新たに作られる。アントシアニンは光の害から植物の体を守る働きを持っているため、老化の過程にある葉でクロロフィルやカロテノイドを分解する際に、葉を守るために働くと考えられている[2]。
黄葉の原理
葉の黄色は色素「カロテノイド」による。カロテノイド色素系のキサントフィル類は若葉の頃から葉に含まれるが、春から夏にかけては葉緑素の影響により視認はできない。秋に葉のクロロフィルが分解することにより、目につくようになる。カロテノイド色素も光による害から植物を守るために機能している。
褐葉の原理
- 黄葉と同じ原理であるが、タンニン性の物質(主にカテコール系タンニン、クロロゲン酸)や、それが複雑に酸化重合したフロバフェンと総称される褐色物質の蓄積が目立つためとされる。
- 黄葉や褐葉の色素成分は、量の多少はあるがいずれも紅葉する葉にも含まれており、本来は紅葉するものが、アントシアンの生成が少なかったりすると褐葉になることがある。
紅葉と進化
紅葉の至近要因については知られているが、そもそもなぜ紅葉があるのか、紅葉の進化的要因、進化的機能については長らく研究対象となってこなかった[3]。1999年(平成11年)に北半球の262の紅葉植物とそれに寄生するアブラムシ類の関係が調べられ、紅葉色が鮮やかであるほどアブラムシの寄生が少ないことが発見された。紅葉の原因となるアントシアンやカロテノイドはそれを合成するのに大きなコストが掛かるが、直接害虫への耐性を高めるわけではない。またアブラムシは樹木の選り好みが強く、一部の種は色の好みもあるとわかっている。そのため、紅葉は自分の免疫力を誇示するハンディキャップ信号として進化した、つまり「十分なアントシアンやカロテノイドを合成できる自分は耐性が強いのだから寄生しても成功できないぞ」と呼びかけているとみなせる[4]。アブラムシ以外の寄生者に対するハンディキャップ効果はまだ調べられていない。紅葉の進化的機能についてはまだ議論が続いている。
紅葉する植物
- 紅葉:カエデ科(イロハモミジ、ハウチワカエデ、サトウカエデ、メグスリノキ)・ニシキギ科(ニシキギ、ツリバナ)・ウルシ科(ツタウルシ、ヤマウルシ、ヌルデ)・ツツジ科(ヤマツツジ、レンゲツツジ、ドウダンツツジ)・ブドウ科(ツタ、ヤマブドウ)・バラ科(ヤマザクラ、ウワミズザクラ、、ナナカマド)・スイカズラ科(ミヤマガマズミ、カンボク)・ウコギ科(タラノキ)・ミズキ科(ミズキ)
- 黄葉:イチョウ科(イチョウ)・カバノキ科(シラカンバ)・ヤナギ科(ヤナギ、ポプラ、ドロノキ)・ニレ科(ハルニレ)・カエデ科(イタヤカエデ)・ユキノシタ科(ノリウツギ、ゴトウヅル)
- 褐葉:ブナ科(ブナ、ミズナラ、カシワ)・スギ科(スギ、メタセコイヤ)・ニレ科(ケヤキ)・トチノキ科(トチノキ)・ズズカケノキ科(スズカケノキ)
(須磨離宮公園)
(御堂筋)
(神戸市立森林植物園)
紅葉にまつわる文化
もみじ(紅葉、黄葉)
もみじ(旧仮名遣い、もみぢ)は、上代語の「紅葉・黄葉する」という意味の「もみつ(ち)」(自動詞・四段活用)が[5]、平安時代以降濁音化し上二段活用に転じて「もみづ(ず)」となり[6]、現代はその「もみづ(ず)」の連用形である「もみぢ(じ)」が定着となった言葉である[7]。
- 上代 - もみつ例
- 「子持山 若かへるての 毛美都(もみつ)まで 寝もと吾は思ふ 汝は何どか思ふ (万葉集)」
- 「言とはぬ 木すら春咲き 秋づけば 毛美知(もみち)散らくは 常を無みこそ (万葉集)」
- 「我が衣 色取り染めむ 味酒 三室の山は 黄葉(もみち)しにけり (万葉集)」
- 平安時代以降 - もみづ例
- 「雪降りて 年の暮れぬる 時にこそ つひにもみぢぬ 松も見えけれ (古今和歌集)」
- 「かくばかり もみづる色の 濃ければや 錦たつたの 山といふらむ (後撰和歌集)」
- 「奥山に 紅葉(もみぢ)踏みわけ 鳴く鹿の 声きく時ぞ 秋は悲しき(古今和歌集)」
秋口の霜や時雨の冷たさに揉み出されるようにして色づくため、「揉み出るもの」の意味(「揉み出づ」の転訛「もみづ」の名詞形)であるという解釈もある。
もみじ(紅葉、黄葉)狩り
日本では、紅葉の季節になると紅葉を見物する行楽、紅葉狩りに出かける人が多い。紅葉の名所と言われる箇所は(全国的には奥入瀬(青森県)や日光(栃木県)、京都の社寺などが有名)は行楽客であふれる。紅葉をめでる習慣は平安の頃の風流から始まったとされ、特に京都市内では多くの落葉樹が植樹されている。また、「草紅葉」の名所としては四万十川や尾瀬、秋吉台等がある。なお、この場合の「狩り」というのは「草花を眺めること」の意味をさし、平安時代には実際に紅葉した木の枝を手折り(狩り)、手のひらにのせて鑑賞する、という鑑賞方法があった。
芸術作品
日本において、古来より紅葉は和歌をはじめ、様々な芸術の題材となっている。関連項目の項を参照。
もみじの天ぷら
大阪府箕面市では、「もみじの天ぷら」がお菓子として定着している[8]。
日本国内の主な紅葉の名所
紅葉や黄葉が色づき始めるのに、日最低気温8℃以下(広葉樹)が必要。さらに5℃以下になると一気に進むとされる。美しい紅葉の条件には「昼夜の気温の差が大きい」「平地より斜面」「空気が汚れていない」「適度な水分」など光合成が行いやすい条件が必要である。紅葉の名所には上記の条件をよく満たす高原、渓谷、標高が高い湖沼・滝周辺にみられる。また、広い敷地・整備された庭がある寺社や公園にも名所がみられる[9]。
社団法人日本観光協会は、約500か所[10]の紅葉スポットを紹介している[11]。これを基にした日本紅葉の名所100選がある。
北海道地方
青葉公園(北海道千歳市)
支笏湖(北海道千歳市)
中島公園(北海道札幌市)
賀老高原ブナ原生林(北海道島牧村)
層雲峡紅葉谷
五色渓谷(北海道浦河町)
東北地方
八甲田山(青森県)
十和田湖(青森県十和田市・秋田県小坂町)
夏油温泉(岩手県北上市)
中尊寺(岩手県平泉町)
角館、小波内渓谷(秋田県仙北市)
天元台(山形県米沢市)
磐梯高原(福島県)
関東地方
明治神宮外苑(東京都港区)
六義園(東京都文京区)
国営昭和記念公園 (東京都立川市)
那須高原(栃木県那須町)
梅ヶ瀬渓谷(千葉県市原市)
鎌倉(円覚寺、明月院、建長寺、源氏山公園ほか)(神奈川県鎌倉市)
紅葉台(山梨県鳴沢村)
中部地方
立山(富山県)
兼六園(石川県金沢市)
永平寺(福井県永平寺町)
刈込池(福井県大野市)
龍双ヶ滝(福井県池田町)
上高地および周辺(大正池、乗鞍高原、乗鞍岳、白骨温泉、美ヶ原) (長野県松本市)
懐古園(長野県小諸市)
雲場池、塩沢湖、白糸の滝(長野県軽井沢町)
岐阜県は飛騨・美濃紅葉三十三選を参照
梅ヶ島温泉・安倍峠(静岡県静岡市)
井川湖(静岡県静岡市)
白倉峡(静岡県浜松市)- 修善寺虹の郷(静岡県伊豆市)
熱海梅園(静岡県熱海市)[12]
寂光院 (犬山市)(愛知県犬山市)
香嵐渓(愛知県豊田市足助町)
定光寺(愛知県瀬戸市)
赤目四十八滝(三重県名張市)
近畿地方
比叡山・延暦寺、坂本・日吉大社、園城寺、石山寺(滋賀県大津市)
湖東三山(滋賀県)
永源寺(滋賀県東近江市)
鷹峯(京都府京都市北区)
鞍馬周辺(貴船神社、叡山電鉄鞍馬線「もみじのトンネル」など)(京都府京都市左京区)
岩倉(京都市右京区)、一乗寺(京都市左京区)実相院、詩仙堂など
東山(南禅寺、永観堂、清水寺、東福寺など) (京都府京都市東山区)
嵯峨野(天龍寺、常寂光寺、愛宕念仏寺ほか)、三尾(高雄神護寺・栂尾高山寺・槙尾西明寺の総称)、
大原(三千院など)(京都市左京区)
大原野(京都府京都市西京区)
光明寺(京都府長岡京市)
神峯山寺(大阪府高槻市)
箕面公園(大阪府箕面市)
けいはんな記念公園(京都府相楽郡精華町)
慈眼院(大阪府泉佐野市)
瑞宝寺公園、太山寺、再度公園、森林植物園、紅葉谷、須磨離宮公園(兵庫県神戸市)
書寫山圓教寺・好古園(兵庫県姫路市)
阿瀬渓谷、神鍋山、出石城跡、宗鏡寺(兵庫県豊岡市) -->
氷ノ山、原不動滝、福知渓谷(兵庫県宍粟市)
龍野公園の紅葉谷と聚遠亭(兵庫県たつの市)
霧ヶ滝渓谷、清正公園(兵庫県新温泉町)
奈良公園、正暦寺(奈良県奈良市)
談山神社、多武峰、長谷寺(奈良県桜井市)
室生寺(奈良県宇陀市)
竜田川・奈良県立竜田公園(奈良県斑鳩町)
高野山・金剛峯寺(和歌山県高野町)
和歌山城西之丸庭園(和歌山県和歌山市)
玉川峡(和歌山県橋本市)
大塔渓谷(和歌山県田辺市)
瀞八丁(和歌山県新宮市)
中国地方
雨滝(鳥取県鳥取市)
芦津渓、板井原集落、智頭宿・諏訪神社(鳥取県智頭町)
小鹿渓(鳥取県三朝町)
鍵掛峠(鳥取県江府町)
立久恵峡(島根県出雲市)
足立美術館(島根県安来市)
匹見峡(島根県益田市)
神庭の滝(岡山県真庭市)
帝釈峡(広島県庄原市)
秋吉台(草紅葉)(山口県美祢市)
毛利氏庭園(山口県防府市)
功山寺(山口県下関市)
四国地方
大歩危、小歩危、三嶺(徳島県三好市)
寒霞渓(香川県小豆島町)
金刀比羅宮(香川県琴平町)
滑床渓谷、雪輪の滝(愛媛県宇和島市・松野町)
面河渓(愛媛県久万高原町)
成川渓谷(愛媛県鬼北町)
黒尊渓谷(高知県四万十市)
轟の滝、西熊渓谷(高知県香美市)
魚梁瀬(高知県馬路村)
四万十川下流(草紅葉)(高知県)
九州地方
九年庵(佐賀県神埼市)
菊池渓谷(熊本県菊池市)
緑仙峡、蘇陽峡(熊本県山都町)
球磨川(熊本県球磨村)
九酔渓(大分県九重町)
脚注
^ 「植物の体の中では何が起こっているのか」 2015年 ベレ出版
^ 「植物の体の中では何が起こっているのか」 2015年 ベレ出版
^ ARCHETTI,M The Origin of Autumn Colours by Coevolution (PDF) (2007年9月27日時点のアーカイブ)
^ Hamilton,W.D. Brown,S.P. (2001)Autumn tree colours as a handicap signal (PDF)
^ 新村出「広辞苑」(もみつ)1983年 岩波書店
^ 「国語辞書(goo辞書) もみず」 2013年8月23日閲覧
^ 「国語辞書(goo辞書) もみじ」 2013年8月23日閲覧
^ “伝統銘菓「もみじの天ぷら」が海外で話題に “日本人は理解し難いものを食べる…””. (2014年10月13日). http://newsphere.jp/national/20141013-1/ 2015年1月10日閲覧。
^ 参考文献:『大人の紅葉旅2010』三栄書房 主にp91
^ 年により数百単位の増減がある
^ “全国紅葉”. 社団法人 日本観光振興協会. 2015年10月29日閲覧。
^ 紅葉と早咲きの梅が両方、楽しめるスポットである。
関連項目
- 落葉
- 生物季節観測
- 紅葉谷
- 観楓会
万葉集 - 原文に黄葉、黄変、黄反、毛美知、母美知があり、紅葉は1首のみ
紅葉伝説 - 戸隠、鬼無里の鬼女伝説- 紅葉狩 (能)
もみじ (曲) - 童謡