バイパス道路
バイパス道路(バイパスどうろ)とは、市街地などの混雑区間を迂回、または峠・山間部などの狭隘区間を短絡するための道路である。略称は「バイパス」[1][2]や「BP」[3][4]。また、地図では「BP」 (英語:bypass) と略されることもある。英語のバイパスは、「付随的」「間接的」を意味し、本来は血管手術や電気回路設計などで使用される用語であったが、現在は主にメイン道路を避けて通過できる道路にも用いられるようになった[5]。
目次
1 建設の目的
1.1 定義
1.2 構造
2 効果
2.1 都市部での効果
2.2 山間部での効果
3 バイパス建設後 (日本)
4 海のバイパス
5 脚注
5.1 注釈
5.2 出典
6 参考文献
7 関連項目
建設の目的
交通量が増加して渋滞が発生している場合、道路交通容量を超える交通集中あるいは交差点など交通処理システムの問題が考えられる[6]。このうち道路交通容量を超える交通集中に対しては、道路拡幅やバイパス道路の建設といった道路改良事業によって道路交通容量を大きくすることで問題解決が図られる[6]。
バイパス道路は既存の道路に新たに併設する道路である。
市街地中心部では一般に道路に流入する交通量が増えるために交通渋滞が起こりやすくなり、特に渋滞が酷く交通の流れに支障をきたす道路では、並行する形で従来の道路と比較して、より広く信号交差点の少ない道路を造り、全体の交通の流れを改善させようとするものである[7][8]。また、山岳地の峠道や渓流沿いの曲がりくねった線形の悪い狭隘道路では、トンネルを掘って標高差を少なくしてつづら折れなどのカーブをなくしたり、曲がりくねった道を全体としての直線状の線形に整えて道路を拡幅して、自動車が走りやすく改良することもある[7]。このため、バイパス道路として造られたトンネルの坑口付近には、旧道への分岐点やその痕跡が見られることが多い[7]。
定義
狭義には、本道の2地点間を別経路で接続する道路を指す。本道と同じ路線名が付与され、区別するために「○○バイパス」などの名称が付加される。バイパス道路の起終点のうち、一方あるいは両方が本道と接続していないこともあるが、将来、延伸して接続する構想がある場合や、他の路線を経由した間接接続として建設されたものもある。
広義には、「○○バイパス」の名称がついていなくても、実質的にバイパスの役割をしている別の路線のことも指す。バイパスとして建設された道路が本道(現道ともいう)となり、それまで本道だったものが旧道として格下の路線となる場合がある[9]。このように立場が逆転した後も、本道(かつてのバイパス)が事故や災害、交通量の増加に伴い、建設当時の許容量が逼迫するなどが原因で渋滞や通行止めとなった際には、「旧道」(かつての本道)が迂回路としての役割を果たす。バイパスが本道となった場合、通常こちらはバイパスではなくなるが、道路の愛称名がない場合や「バイパス」という呼称が強く浸透している場合などは、引き続きそれが用いられることがある[10]。
また、複数の路線を横に接続する道路がバイパスと名付けられることもある。
日本の行政上の専門用語では、全線開通したバイパス道路は従来の道路を「旧道」にして新しい「現道」として一般に扱われることが多いが、バイパスとして両端が現道に連結されず全線開通に至らない部分開通したバイパス道路区間は、「新道」に区分される。
構造
基本的には、在来の旧道と比べ、線形改良と拡幅がなされ、カーブや勾配を少なくするためにトンネルや掘割・高架橋を多用したり、信号を少なくするために立体交差構造にしたり、より高規格な道路として開通する[8]。なお、計画時の整備予算の都合や交通量の予測、用地収用の進捗などにより暫定2車線道路として開通し、後に拡幅・完成になる場合や、平面交差で開通し、後に当初計画の通りあるいは計画変更して立体交差化される場合もある。
バイパス道路は計画された道路全体が完成してから開通させる場合と、計画したバイパスの延長が長距離のケースなどでは、道路を管理する行政の予算的な都合に応じて、その一部分の区間だけを年度ごとに先行して完成させて、従来の道路とは交差する連絡道路で結び、はしご状に段階的に供用していく場合がある[7]。
効果
都市部での効果
ある市街地に対してバイパス道路を設置することにより、通過交通(その道路を通過するだけの交通)が市街地を通ることによって発生する渋滞・事故・騒音・排気ガスによる大気汚染などの問題を軽減したり防いだりすることができる。市街地では難しい大規模な道路拡幅も可能となる。通過交通のためだけでなく、その市街地を出発地または目的地とする交通を円滑にる役割も持つ。
主要道路でありながら車線数が少なかったり線形が悪いなどの要因でボトルネックになっている区間などの交通問題を解消するため、一般的には建造物の密集した市街地を避け、土地取得の比較的容易な郊外部に建設するケースが多い。
山間部での効果
山間部に多くみられる屈曲した狭隘区間に対してバイパス道路を建設することにより、ボトルネックを解消し、疎遠であった地域間交通を促進する効果が発生する。また、大型車の通行を可能とすることで物流の活性化を図ることができる。
路肩崩落などの災害が多発する区間に設けられるバイパス道路の場合は、事故発生防止・災害復旧費用の節減・災害復旧のための不通期間の縮小などの効果が期待される事も多い。
バイパス建設後 (日本)
バイパス道路がつくられるとそれまでの道路は「旧道」と呼ばれるようになることが多い[8]。また、この「旧道」は行政上移管されて格下の道路区分(例えば、一般国道に対する都道府県道・市町村道)に位置づけられることがある[5][8]。新しい道路が現道に位置づけられた場合はバイパスという名称は不自然であるが、そのままになっている場合も多い。地方都市では、車の往来がバイパス道路に移ってしまい、本来の国道現道などのメイン道路があまり使われなくなり、寂れてしまうことがある[5]。山岳地帯の場合は交通需要や道路維持費用の都合により旧道が放棄されてそのまま廃道になる場合もある[8]。大都市周辺では、バイパス開通後も旧道の交通量は多く、依然として主要道路として機能することも少なくなく、在来道路が国道であった場合は、都道府県道・市町村道への降格に反対する沿線住民もいることから、路線指定は国道のままとなる場合がある[注釈 1]。また、1〜2桁番号の幹線国道にバイパスが開通したときは、旧来の路線番号から3桁の路線番号指定へ変わることもある[注釈 2]。
バイパス道路は通行料が無料の場合と有料の場合がある。多額の事業費がかかった場合などには、受益者負担の観点により、道路利用者から料金を徴収する有料道路となる場合がある。この場合、償還が終わるなどして有料のバイパス道路が無料開放されるケースもみられる。また、開通時から無料での通行が可能となっているものもあり、新潟県新潟市にある新潟バイパスなどがそれに該当する[注釈 3]。
近年では交通需要の大幅な伸びにより、以前建設されたバイパス道路が手狭となり、バイパス道路をさらにバイパスする道路の建設も行われている。
例えば、建設中の国道17号上尾道路は以前建設された国道17号大宮バイパスとほぼ同じ区間をバイパスする形である[注釈 4]。また、国道1号京滋バイパスは五条バイパスの、第二京阪道路は枚方バイパスのさらに外側を迂回するバイパスである。
また、高速道路を建設するため、一般国道のバイパスという名目で国土交通省直轄の高速道路が建設されることもある[注釈 5]。このような場合は、基幹道路としての国道が格落ちすることはない[5]。
例えば、国道2号の広島岩国道路は山陽自動車道と別の道路として事業化されたが、本線が山陽道と直結していて事実上の一部区間となっている。
なお、高速道路はそのものが一般道路をバイパスする役割を持っているが、場所によっては地域内の通行が圧倒的に多いことがある[注釈 6]。これらの地域では高速道路自体のバイパスを必要とされる一方、有料道路として建設された地域では、無料の一般道路に交通量が増えて渋滞しているのに、有料道路が閑散としている例もある。このような有料道路では夜間に料金を割引もしくは無料にしたり、国や自治体が買い取ることによって償還期限前に無料開放されたりすることがある[注釈 7]。暫定2車線(完成4車線)で建設された後、無料開放になっても4車線化されなかったバイパス道路において、有料時代は暫定2車線でも充分な程の交通量だったのが、無料開放によって交通量が激増して渋滞が頻発する場合も見られる。
海のバイパス
フェリーの航路であって、陸上交通の道路があるがこれを代替する役割がある場合、これを「海のバイパス」と通称することがある[12]。
脚注
注釈
^ 国道1号の現道に並行するバイパス道路は30カ所以上ある[11]。
^ 国道8号長岡バイパスなど[11]。
^ 新潟市近郊のバイパス道路については「新潟市内のバイパス網」もあわせて参照
^ ただし、現在の本線は大宮バイパスで、旧本線は県道になっている
^ A'路線 : 国道2号広島岩国道路・国道302号伊勢湾岸道路・国道14号16号京葉道路の一部区間など、B路線 : 国道468号首都圏中央連絡自動車道・国道475号東海環状自動車道など
^ 例 : 阪和自動車道の海南IC - 有田IC間など
^ 例 : 国道1号藤枝・掛川・磐田・浜名バイパスなど
出典
^ 国土交通省中部地方整備局 名四国道事務所 2015年9月30日閲覧
^ 産経新聞社 2015年9月30日閲覧
^ 三重県 2015年9月30日閲覧
^ 静岡新聞 2015年9月30日閲覧
- ^ abcdロム・インターナショナル(編) 2005, p. 45.
- ^ ab「交通システム 第2版」p. 12(塚口博司、塚本直幸、日野泰雄、内田敬、小川圭一、波床正敏著、2016年)
- ^ abcd佐藤健太郎 2014, p. 202.
- ^ abcde浅井建爾 2015, p. 92.
^ 主に本道が沿線住民の生活道路となっている場合や、バイパスとの距離がそれ程離れておらず、比較的短い距離のものが殆ど(三桁の国道や都道府県道に多く見られる)。または山岳地帯など本道がほぼ使われなくなると見込まれた場合。
^ 特に近年建設されたバイパス道路は、本道が旧道として降格した後も地図上などで名称が残されたままになる事が多い
- ^ ab浅井建爾 2015, p. 93.
^ “鳥羽伊良湖航路への支援”. 鳥羽市 (2012年3月5日). 2012年10月3日閲覧。
参考文献
- 浅井建爾 『日本の道路がわかる辞典』 日本実業出版社、2015年10月10日、初版。ISBN 978-4-534-05318-3。
- 佐藤健太郎 『ふしぎな国道』 講談社〈講談社現代新書〉、2014年10月20日。ISBN 978-4-06-288282-8。
- ロム・インターナショナル(編) 『道路地図 びっくり!博学知識』 河出書房新社〈KAWADE夢文庫〉、2005年2月1日。ISBN 4-309-49566-4。
関連項目
- 日本のバイパス道路一覧
バイパス - 本来の意味はこちらを参照。道路の場合のこの単語は、既存の道路に対する新設道路という意味合いで使われ、その実体は迂回路というより短絡線であることが多い。他の用法とはその点がやや異なる。- 高速道路
- 高速自動車国道