漁業





















































漁業(ぎょぎょう)とは、営利目的で魚介類を捕獲したり養殖する産業のこと[1]




目次






  • 1 概要


  • 2 分類・区分


  • 3 歴史


    • 3.1 ヨーロッパ・アメリカの漁業史


    • 3.2 日本の漁業史


      • 3.2.1 縄文・弥生時代の漁業


      • 3.2.2 古代・中世の漁業


      • 3.2.3 近世の漁業


        • 3.2.3.1 動物考古学から見た近世の漁業


        • 3.2.3.2 生類憐れみの令と漁業




      • 3.2.4 近現代の漁業






  • 4 水産業・漁業用語


    • 4.1 水揚げ量上位10漁港


    • 4.2 水揚げ高上位10漁港




  • 5 問題


  • 6 脚注


    • 6.1 注釈


    • 6.2 出典




  • 7 参考文献


  • 8 関連項目


  • 9 外部リンク





概要






漁業とは、営利を目的として魚介類を捕獲したり養殖する産業のことで[1]、別の言い方では、営利目的で水産動物・水産植物を採ったり養殖する事業のこと[2]
水産加工業などとともに水産業の一種である。


漁業にはさまざまな人々が関わっているが、漁撈活動に専業として携わる者のことは漁師という。
漁業は農業などと同じく第一次産業だが、公共の場を利用して行われる点で農業と大きく異なる[3]。そのため、漁業権や漁業法などの法令により、多くの制限を受ける。


従来[いつ?]の漁業では、漁獲された魚介類は、機械的処置を施さない場合の長期保存が難しいため、漁場は加工地・消費地から遠くない範囲に限定されていた。





バングラデシュの網漁


漁業の存続自体は自然環境の再生産に負うところが大きく、旧来の伝統的な漁具・漁法による漁撈活動では生産性は低かったものの、水産資源の再生産の限度を下回るものであった。


その後の漁具の改良・開発や、流通網の整備、冷凍保存技術の発達などにともない、生産量は増大し、漁場もまた地球規模に拡大した。その一方で、水産資源の乱獲が問題となっている。


生物資源の枯渇の問題や安定供給上の要請から、放流(栽培漁業)、養殖が盛んに行われており、放流魚の生態研究、養殖される魚種の開発などには、日本の場合、各自治体や大学などの研究機関も積極的に関与し、「とる漁業」から「育てる漁業」への転換をはかる努力が続けられている。



分類・区分






遠洋漁業を行う日本のイカ釣り漁船
ニュージーランドのクック海峡にて、2005年撮影。


分類方法は多様で、漁場による分類、漁具・漁法による分類、漁獲物の種類による分類、漁業法規による分類、経営形態による分類などがある[1]


漁場による分類としては、淡水漁業、沿岸漁業、沖合漁業、遠洋漁業、深海漁業などがある[1]。農林水産省の漁業・養殖業生産統計では海面と内水面に漁業が分類され、海面には遠洋、沖合、沿岸としてデータを計上、以下の漁法による分類にある養殖とは区分される平成27年漁業・養殖業生産統計 - 農林水産省大臣官房統計部。栽培漁業というものもある[4]



  • 海面漁業

    • 沖合漁業

    • 沿岸漁業

    • 遠洋漁業



  • 海面養殖業

  • 内水面漁業

  • 内水面養殖業


漁具・漁法による分類としては、釣漁業、網漁業、養殖漁業、採取漁業などがある[1]


漁獲物の種類による分類としては、「マグロ漁」「イカ漁」「タコ漁」「ホタテ漁」... 等々がある。



歴史





古代エジプトの壁画に刻まれた漁業従事者たち





11世紀にバグダードで医学を学んだ東方系キリスト教徒であるイブン・ブトラーン (en) の書籍『健康全書 (Tacuinum Sanitatis)』(14世紀写本)に著された網漁の風景。



ヨーロッパ・アメリカの漁業史


魚獲りは人類の発生とともに行われてきたが、世界で産業と呼べる規模の漁業が行われ始めたのは、16世紀のオランダによる北海ニシン船団が初めてと言われる[5]。ニシン船団は80-100トンのビュスと呼ばれる帆船で構成され、17世紀には2000隻のビュスが活動していた。流し網でニシンを獲り、船上で内臓を取り塩漬け保存され、船倉が一杯になるまで続けられた。オランダのニシン輸出量は1614年の1年だけで15万トンに及び、17世紀には総人口の5分の1がニシン関連の仕事に就いていた。ニシン漁はその後スコットランド、ノルウェー、アイスランド、ドイツなどで産業化した。


16世紀中頃にはタラ漁が産業化し始める。ニューファンドランド島沖のタラの豊かな漁場グランド・バンクスは、以前からバスク人漁師には知られていたが、ジョン・カボットの探検行により他のヨーロッパ諸国にも知られるようになった[5]。1550年代にフランス、ポルトガル、スペインの船団が漁を始め、ヨーロッパや西インド諸島に輸出された。その後、北アメリカの入植が進むとともにニューイングランドやカナダ沿岸の船団も加わった。グランド・バンクスのタラ漁はスクーナー船による延縄漁が長く行われ、20世紀になってトロール船に取って替わられた。


1596年にスピッツベルゲン諸島が発見されるとともに、北氷洋で商業捕鯨が始まった[5]。オランダとイギリスは定期的に捕鯨船団を送り、ホッキョククジラを捕獲した。オランダの捕鯨船団は1675年から1721年のまでのあいだに3万3000頭のホッキョククジラを捕獲している。18世紀にはイギリスが、19世紀半ば以降ははノルウェーが北氷洋捕鯨のトップとなった。また、18世紀にはナンタケット島でマッコウクジラが捕獲され、鯨油を目当てにしたマッコウクジラ漁が産業化した。1842年にはアメリカだけで600隻近い捕鯨船が活動していた。


蒸気船による漁が始まったのは1860年代以降であり、最初はトロール船を牽引するために使われた。蒸気トロール船は急速に発達し、1941年には欧米の漁船団の標準船となっていた。技術が発達しトロール船とともに工船も巨大化し、漁獲量は劇的に上昇したが、操業権と漁業資源の確保は漁業国にとっての死活問題となり、タラ戦争のような深刻な事態へと発展した[5]。1982年になって排他的経済水域を明確にする国連海洋法条約が定められた。



日本の漁業史



縄文・弥生時代の漁業


沿海部における日本漁業の歴史は古く、縄文時代の遺跡からは釣針や銛、漁網の錘として用いられた土器片錘や丸木舟などの漁具が出土しており、漁や採集によって魚介類を収獲していたと考えられる。


縄文晩期の関東地方では大型貝塚の数が減少し、クロダイ・スズキ漁を中心とする縄文型内湾漁労は消滅するに至る[6]。弥生時代には大阪湾岸など縄文晩期から弥生中期に至るまで縄文型漁労が継続した地域も存在するが[6]、東京湾では新たに内湾干潟の貝類を主体とするタイプの貝塚が形成されるが、遺跡から出土する魚骨は少なく、全国的に漁労は低調であったと評価される[6]。一方で、大陸から伝来した管状土錘を用いた網漁やイイダコの蛸壺漁など、新たな漁法を用いた弥生漁労も開始された[6]。また、三浦半島など外洋沿岸地域では外洋漁労が行われた[7]


弥生時代には稲作農耕が普及するが、水田と貝塚の双方を持つ弥生集落では農繁期の夏季に漁期を持つカツオなどの魚類が出土しており、銛漁・釣漁など専門性の高い漁法が用いられていることから、農耕民とは別に漁労を専門とする技術集団がいたと考えられている[8]。また、稲作農耕の開始により水田や用水路など新たな淡水環境が生まれたことにより淡水産の魚類・貝類を対象とした漁労も開始された[9]


なお、北海道では稲作農耕が普及しなかったため、縄文以来の狩猟や漁労が継続された[10]



古代・中世の漁業


鎌倉時代には漁を専門とする漁村があらわれ、魚・海藻・塩・貝などを年貢として納めるようになった。室町時代にはさらに漁業の専門化がすすみ、沖合漁業がおこなわれるようになり、市の発達や交通網の整備、貨幣の流通など商業全般の発達に漁業も組み込まれていった。



近世の漁業



動物考古学から見た近世の漁業

江戸時代には遠洋漁業がおこなわれ、また、上方で発達した地曳網による大規模な漁法が全国に広まるなど、漁場が広がった。消費地である江戸近郊で消費需要が高まり、江戸市中の遺跡からはマダイ、キダイ(レンコダイ)、アマダイ、タラ、サンマ、サケ、ナマズなど「江戸前」と呼ばれた東京湾産出の魚種をはじめ、流通網の成立や保存技術の進歩により遠方から運ばれた多様な魚類が出土している[11]。また、西日本からの魚食文化の流入としてナマズやスッポンが挙げられる[12]


江戸市中の遺跡から出土する貝類ではアワビ、サザエ、ハマグリが多く消費され、アサリ・シジミは近世前期には少ない[13]。底曳漁業の導入に伴い深場に生息するアカガイの消費も増加し、新たにタイラギやトリガイも出現する[13]。一方で、中世と比較してツメタガイ、アカニシが減少する。底曳漁業の導入は関西からその技術を持った魚民が移住したとも考えられている。アサリなど貝類はむき身の形で販売されており、東京都港区の芝雑魚場跡ではバカガイの貝層が出土し、バカガイがむき身の形で流通していたと考えられている[14]


一方で、文献史料によれば東京湾岸の漁業は幕府により特権を与えられた特定の漁村のみで行われたとされる[15]。考古学的にも東京湾岸の漁業は中世と同様であることが指摘され、中小規模の貝塚が営まれ、管状土錘を用いた網漁が行われている[15]。貝塚の規模、貝類の組成や出土する魚骨、漁具の種類も中世と同様で、引き続き零細な半農半漁の漁業が継続した様相を示している[15]


近世には大都市の影響による湾岸の富栄養化など環境改変も発生している[16]



生類憐れみの令と漁業



一勇斎国芳(歌川国芳)の名所絵揃物『東都富士見三十六景』の内「佃沖 晴天の不二」
江戸時代末期、江戸前の佃島沖にて漁師が行う網漁の様子を描いた一図。


延宝8年(1680年)に将軍となった徳川綱吉は「生類憐れみの令」と総称される一連の法令を発布する。生類憐れみの令では犬をはじめとする動物愛護のみならず、牛・馬の保護や食用規制、鷹狩に用いる鷹の放鳥、鷹匠の削減など動物をめぐる総合的な政策が実施された[17]


生類憐れみの令では鉄砲を用いた一般庶民の狩猟も規制され、家禽を除く鳥類や観賞用の昆虫の飼育なども規制された[18]。川の多い江戸は釣り場が多く一般庶民が釣りを行い魚を食用にしていることがあったが、生類憐れみの令では魚釣りも禁止された。ただし、生業として漁業を行う漁師の活動は制限されず、また漁獲され流通した魚の購入に関しては自由であった[18]。宝永6年1月10日に将軍綱吉は死去し、綱吉の養子となっていた甲府徳川家の綱豊(家宣)が新将軍になると生類憐れみの令は撤廃された[19]



近現代の漁業


戦後の日本経済の成長とともに水揚げ量は増加したが、その増加を牽引した遠洋漁業・沖合漁業が1973年(昭和48年)の石油ショックによって漁船のコスト高の影響を受け、また1970年代後半から世界の漁業国が200海里規制を取るようなると、遠洋漁業・沖合漁業の水揚げ量は減少した。


さらに1985年(昭和60年)のプラザ合意以降、円高が進んだために水産物の輸入が増加した。1980年代半ば以降、遠洋漁業・沖合漁業・沿岸漁業などの海面漁業は漁獲量の下落傾向が続き、2000年(平成12年)には水産物の輸入量が生産量を上回った。


このように漁業資源をめぐる国際競争は激化し、今日の日本の漁業は国際化の波にもさらされる一方で、近年は、そうした「とる漁業」から、採卵、人工孵化、放流などによる「育てる漁業」(栽培漁業・養殖漁業)への転換をはかる努力が続けられている。


近畿大学水産研究所では、2002年6月に世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功した[20]。近大は、完全養殖に成功したクロマグロを近大マグロと呼称し、同大のマグロ料理を提供する専門店を銀座にオープンした[21]


2017年8月、双日は、子会社の双日ツナファーム鷹島がNTTドコモと電通国際情報サービスとともに、IoT技術やディープラーニングを活用した画像認識技術を活用した水産養殖事業の効率性を向上させるシステムを構築し、水産養殖業の高度化を行う実証実験を開始したとアナウンスした[22]



水産業・漁業用語



水揚げ


水産業で言うところの「水揚げ」は、漁業(漁撈)や養殖漁業によって得られる、取り扱い水産資源全般を指す語である。

水揚げ量と水揚げ高

「水揚げ量」および「水揚げ高」という用語は、前者が重さを、後者が取引金額を表すためのものであり、例えば、「水揚げ量は3,000トン。水揚げ高は25億円に達した」などという用い方をする。数値は前者が物理的であるのに対して後者は経済的であるため、水揚げ量の多い漁港と水揚げ高の多い漁港が一致することは、双方が同一経済圏に属しているか、何らかの経済協定で同一条件下にない限り、あり得ない。さらには、同一経済圏に属していても、ブランド力の有無・優劣によって差異が生じる場合も多い(事例:大間のマグロとその他の同種)。



水揚げ量上位10漁港


























































順位
漁港名
水揚げ量(t)
1

銚子港
219,261
2

焼津港
156,224
3

境港
126,217
4

長崎港
118,869
5
松浦港
116,959
6

釧路港
114,977
7

八戸港
113,359
8

石巻港
103,905
9

枕崎港
97,880
10

福岡港
82,297

  • 時事通信社調べ(2015年)[23]


水揚げ高上位10漁港


























































順位
漁港名
水揚げ高(百万円)
1

福岡港
47,891
2

焼津港
42,481
3

長崎港
34,953
4

根室港
27,521
5

銚子港
23,455
6

気仙沼港
21,268
7

三崎港
20,641
8

境港
20,571
9

八戸港
19,699
10

下関港
19,551

  • 時事通信社調べ(2015年)[23]


問題


法学者で動物の権利を主張するフランシオンは、一般に不必要な動物への危害は避けるべきだとされているが、漁業も不必要な危害の禁止に反し、やめるべきだと指摘する。[24]



脚注


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注釈





出典




  1. ^ abcdeブリタニカ国際百科事典【漁業】


  2. ^ 広辞苑 第六版 【漁業】


  3. ^ 亀井まさのり『あぁ、そういうことか!漁業のしくみ』恒星社厚生閣、2013年、ISBN 9784769912965 pp.1-5.


  4. ^ 「栽培漁業(さいばいぎょぎょう)と養殖漁業(ようしょくぎょぎょう)の違(ちが)いについておしえてほしい。」(こどもそうだん) - 農林水産省

  5. ^ abcdブライアン・レイヴァリ著、増田義郎、武井摩利訳『船の歴史文化図鑑:船と航海の世界史』悠書館、2007年。ISBN 9784903487021、pp.246-259,384-385.

  6. ^ abcd樋泉 2008, p. 126.


  7. ^ 樋泉 2008, p. 127.


  8. ^ 樋泉 2008, p. 128.


  9. ^ 樋泉 2008, p. 130.


  10. ^ 樋泉 2008, p. 131.


  11. ^ 樋泉 2008, pp. 140-142.


  12. ^ 樋泉 2008, p. 143.

  13. ^ ab樋泉 2008, p. 141.


  14. ^ 樋泉 2008, pp. 141-142.

  15. ^ abc樋泉 2008, p. 140.


  16. ^ 樋泉 2008, pp. 144-146.


  17. ^ 岡崎 2009, p. 72.

  18. ^ ab岡崎 2009, pp. 86-87.


  19. ^ 岡崎 2009, pp. 88-89.


  20. ^ 日本経済新聞2002年8月2日朝刊


  21. ^ 養殖マグロ、食卓へ 「近大マグロ」の店が銀座進出 NIKKEI Style 2014年3月1日


  22. ^ 双日、NTTドコモ・ISIDとマグロ養殖事業におけるIoT・AI実証実験を実施 日本経済新聞 2017年8月8日

  23. ^ ab全国主要32漁港取扱高(時事通信社調べ) (PDF)


  24. ^ ゲイリー・L・フランシオン. 動物の権利入門. 緑風出版. p. 88. 




参考文献







  • 財団法人矢野恒太記念会 『日本国勢図会』各年度版、同会刊

  • 同 『表とグラフで見る日本のすがた 日本をもっと知るための社会科資料集』各年度版、同会刊


  • 桜田勝徳 『漁撈の伝統』、岩崎美術社<民俗民芸双書>、1977年


  • 大林太良編 『日本民俗文化大系5 山民と海人 非平地民の生活と伝承』、小学館、1995年(普及版) ISBN 4-09-373105-5


  • 森浩一編 『日本民俗文化大系13 技術と民俗(上)海と山の生活技術誌』、小学館、1995年(普及版) ISBN 4-09-373113-6


  • 野本寛一・香月洋一郎編 『講座 日本の民俗学5 生業の民俗』、雄山閣、1997年 ISBN 4-639-01472-4

  • 地域漁業学会編 『漁業考現学 21世紀への発信』、農林統計協会、1998年 ISBN 4-541-02422-5

  • 井田徹治 『サバがトロより高くなる日 危機に立つ世界の漁業資源』、講談社<講談社現代新書>、2005年 ISBN 4-06-149804-5


  • 樋泉岳二、「漁撈活動の変遷」、西本豊弘編 『人と動物の日本史1 動物の考古学』 吉川弘文館、2008年。 


  • 岡崎寛徳、「生類憐れみの令とその後」、中澤克昭編 『人と動物の日本史2 歴史の中野動物たち』 吉川弘文館、2009年。 



関連項目



  • 漁具

  • 魚網

  • 漁場

  • 漁業権

  • 漁業協同組合


  • 排他的経済水域
    • 日本の排他的経済水域



  • 捕鯨問題
    • 日本の捕鯨


  • 責任ある漁業

  • レジームシフト

  • 人工漁礁

  • 漁業経済学会

  • 北日本漁業経済学会



外部リンク



  • JF全漁連

  • 社団法人漁業情報サービスセンター

  • 独立行政法人水産総合研究センター 栽培漁業センター

  • 外務省・分野別外交政策-漁業

  • 水産庁








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