ヘブライ語
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ヘブライ語 | ||||
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עברית, Ivrit | ||||
クムランで発見された最も長い死海文書のひとつ、Temple Scrollの一部 | ||||
発音 | IPA: 近代: [ivˈʁit] – 古代: [ʕib'rit][1] | |||
話される国 | イスラエル | |||
地域 | イスラエルとその占領地など | |||
民族 | イスラエル (民族); ユダヤ人およびサマリア人 | |||
消滅時期 | ミシュナー・ヘブライ語は5世紀までには話し言葉として使用されなくなったが、ユダヤ教のヘブライ語聖書の典礼言語としては使用され続けた[2][3]。 | |||
言語系統 | アフロ・アジア語族
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標準語 | 近代ヘブライ語 | |||
表記体系 | ヘブライ文字 ヘブライ点字 古ヘブライ文字 (古代聖書のヘブライ語) アラム文字 (後期聖書のヘブライ語) | |||
公的地位 | ||||
公用語 | イスラエル (近代ヘブライ語) | |||
統制機関 | ヘブライ語アカデミー (Academy of the Hebrew Language) האקדמיה ללשון העברית (HaAkademia LaLashon HaʿIvrit) | |||
言語コード | ||||
ISO 639-1 | he | |||
ISO 639-2 | heb | |||
ISO 639-3 | 各種: heb — 近代ヘブライ語hbo — [[聖書ヘブライ語 (典礼言語)]]smp — [[サマリア語 (典礼言語)]]obm — [[Moabite (絶滅)]]xdm — [[Edomite (絶滅)]] | |||
Linguasphere | 12-AAB-a | |||
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ヘブライ語(ヘブライご、עברית, Ivrit, ラテン語: Lingua Hebraea)は、アフロ・アジア語族のセム語派に属する北西セム語の一つ。ヘブル語とも呼ばれる。
目次
1 概要
2 古典ヘブライ語
3 現代ヘブライ語
4 言語分布
5 文字
6 音韻
7 文法
7.1 形態論
7.2 統語論
8 ヘブライ語の単語・文
8.1 ヘブライ語起源の言葉
8.2 ヘブライ語の文例
9 脚注
10 参考文献
11 関連項目
12 外部リンク
概要
ヘブライ語には、古代にパレスチナに住んでいたヘブライ人が母語として用いていた言語古典ヘブライ語(または聖書ヘブライ語)と、現在イスラエル国で話される現代ヘブライ語とがある。現代ヘブライ語はヘブライ語で「 עברית ,イヴリート(イヴリット)」と呼ばれ、古代の聖書ヘブライ語は לשון הקודש , Leshon HaKodesh[4] あるいは「聖なる言葉」すなわち「神の言語」という名前で知られていた。
古典ヘブライ語はユダヤ人が世界離散(ディアスポラ)したころから次第に話されなくなり、後の時代の離散ユダヤ人は、かわってアラビア語・ラディーノ語・イディッシュ語などの諸言語を日常的に用いた。そのためヘブライ語は二千数百年の間、ユダヤ教の言葉として聖書(ヘブライ語聖書)やミシュナーなどの研究・儀式・祈り、別々の言語を話す遠隔のユダヤ人共同体同士がコミュニケーションを取る場合などに使われるのみであった。しかし、20世紀にヘブライ語が現代ヘブライ語として再生され、他の言語に替わってイスラエル国に居住するユダヤ人の日常語の地位を占めるようになって現在に至っている。
この言語の一般的な名称として使われているヘブライの名は、ユーフラテス川を越えて移住する人たちのことを総称してヘブル人と呼んでいたことに由来する。今から紀元前3500年頃にカルデアのウル(現在のイラク)からカナンの地(現在のパレスチナ・イスラエル)に移住したとされるアブラハム一族と、その子孫である人々が他称としてヘブル人、ヘブライ人などと呼ばれるようになり、彼らが使う言語がヘブル語、ヘブライ語と呼ばれる。
特徴として同じセム語派に属するアラビア語と同様に、この言語は右から左に右横書きで書く。またヘブライ文字はアラム文字に由来するため、日本語や英語などと違って、子音を表す表記はあっても、母音を表す表記はないことが多く、言語の習得にはある程度の慣れが必要である。
ネクダーと呼ばれる母音記号は存在はするが、日本語で出版されているヘブライ語の文法書や語学書や辞書など、言語習得のための初等教科書や発音のわからない外来語の表記の際に使われるだけであり、文章を読んだり書いたりする際に使われる機会は少ないが、イスラエル国でも詩やシャアル・ラマトヒールというヘブライ語初心者向けの新聞にはネクダーが付されている。
古典ヘブライ語
古代のヘブライ人の言葉がカナン語と混じり合ってできあがったものだとされている。ヘブライ語で書かれた最も著名な書物は「ヘブライ語聖書」(キリスト教徒にとっての旧約聖書)である。
この言語は当時のオリエント世界の共通語であったアラム語に取って代わられていき、旧約聖書も一部はアラム語で記述された。後の新約聖書の時代においても、イエスは日常的にはヘブライ語とともにアラム語を話したと考えられており、新約聖書にはイエスの言葉として両方の言語の言葉がそのまま記載された箇所がある。この二言語はきわめて近縁であり、さらに長年の言語接触で一種の方言連続体を形成していたことから、この時代のユダヤ人は自然とアラム語とヘブライ語のバイリンガルとなっていたと推測されている。
紀元70年にユダヤ人の世界離散(ディアスポラ)が起こってからは、ユダヤ教における宗教儀式において使用されるほかは、ラディーノ語、イディッシュ語の中に痕跡を残すのみで一般的な話し言葉としては完全に使われなくなっていた。
中世に入って文献学者のヨハン・ロイヒリンは非ユダヤ人にして初めて大学で聖書ヘブライ語を教授しカバラについての著書 (De Arte Cabalistica) を残し、ラビとしての教育を受けたバルーフ・デ・スピノザは死後に遺稿集とした出版された『ヘブライ語文法総記』で文献学的聖書解釈の観点からより言語語学的なヘブライ語の説明を行った。その冒頭部で、母音を表す文字がヘブライ文字には存在しないにもかかわらず「母音のない文字は『魂のない身体』(corpora sine anima) である」と記した。
現代ヘブライ語
現代ヘブライ語は、20世紀に日常語として復活した。しかし、ヘブライ語が日常語として用いられなくなっていた時代でも、ヘブライ語による著述活動は約1800年間、途切れることなく続いていたのであり、全くの死語となっていたわけではない。現代ヘブライ語はミシュナー・ヘブライ語など後世の言語的特徴を多く含む。
19世紀にロシアからパレスチナに移り住んだエリエゼル・ベン・イェフダー(1858年 - 1922年)は、ヘブライ語を日常語として用いることを実践した人物であり、ヘブライ語復活に大きな役割を果たした(彼の息子ベン・ツィオンは生まれてから数年間はヘブライ語のみで教育され、約二千年ぶりにヘブライ語を母語として話した人物となった)。しかし、彼が聖書を基に一から現代ヘブライ語を作ったわけではない。彼の貢献は主に語彙の面におけるものであり、使われなくなっていた単語を文献から探し出したり、新語を作ったりして、現代的な概念を表すことができるようにした。そのために全16巻からなる『ヘブライ語大辞典』を編纂したが、完成間近で没し、死後に出版された。
こうしたユダヤ人の努力によってヘブライ語は話し言葉として再生され、のちにイスラエルの公用語のひとつとなった。一度日常語として使われなくなった古代語が再び復活して実際に話されるようになったのは、歴史上このヘブライ語だけである。現代ヘブライ語は、イスラエル国内に多数のアラブ人が居住していることにより、アラビア語の影響を受けており、「ファラフェル」(ヘブライ語: פָלָאפֶל)などアラビア語起源の単語がそのままヘブライ文字で記載されることが少なくない。さらに、経済のグローバル化や情報技術の発達などにより、「インターネット(ヘブライ語: אִינְטֶרְנֶט)」など英単語をヘブライ語に「翻訳」することなく、そのままヘブライ単語となることも少なくなく、さらにコンピュータ関連の文書などにおいてヘブライ文字で記載されているヘブライ語のなかに、英字で記載されてある英単語がそのまま挿入されていることもある。また、この場合、英単語は右から左へではなくそのまま左から右へと記述され挿入される。
現代ヘブライ語において用いられる数字は、数学で用いられているアラビア数字である。そして、右から左へ記載するヘブライ語の中に、左から右へ記載するアラビア数字を挿入して記載している。そして、マイクロソフト社のMicrosoft Wordを用いてヘブライ語の文書を作成する際にも、ヘブライ文字は右から左へ記載されるが、数字だけは左から右へ記載されるようになっている。
世界各地からユダヤ教徒がイスラエルへ移民しているため、イスラエルにおいてはイスラエルへの移民であるか否かを問わず、またイスラエルへ定住する意思の有無を問わず、誰でもヘブライ語を学習することができる成人を対象としたヘブライ語の教育機関としてウルパンが設立されている。
言語分布
21世紀初頭において、ヘブライ語話者が多数を占める国家はイスラエル一国のみである。イスラエルにおいてヘブライ語はアラビア語とともに公用語の地位にあるが、同国内におけるユダヤ人とアラブ人の人口及び政治的・経済的影響力の差によって、ヘブライ語の影響力の方が強く、事実上唯一の公用語の地位を占めている状況にある。さらにベンヤミン・ネタニヤフ政権は2017年5月7日にアラビア語を公用語から外して国語へと格下げし、ヘブライ語のみを公用語とする閣議決定を行った[5]。
現代のヘブライ語事情に関しては、イスラエル国内のアラブ人、すなわちアラブ系イスラエル人、ならびに占領地におけるパレスチナ人は、ヘブライ語を非常に流暢に話している[6]。彼らのほうが、成人になってからウルパンというヘブライ語教室においてヘブライ語を少しだけ学ぶユダヤ系米国人たちよりもヘブライ語に堪能であると思われる。その背景として、ヘブライ語とアラビア語は、文字は異なるが、共にセム語派の言語であり、文法や語彙などにおいてかなり類似点があるからである。また、現代のパレスチナだけではなくイスラエル国内においても多数のアラブ系イスラエル人が居住し、イスラエル建国以前はアラブ人の都市や村落も多数あるため、アラビア語起源の人名や地名など固有名詞のヘブライ文字化も行われている。具体的には、アラビア語で「ようこそ」などを意味するاهلا وسهلا(アハラン・ワ・サハラン)はאהלן וסהלןとヘブライ文字化される。
文字
音韻
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文法
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ヘブライ語の文法は少し分析的言語 (Analytic language) の特徴を持っている。与格や奪格や対格の代わりに、前置詞を使う。しかしまた、動詞と名詞の語形変化が重要である。
形態論
ヘブライ語の言葉は三字の語根からでき、その語根から名詞と動詞と形容詞が出来る。これはアラビア語とよく似ている。
統語論
聖書ヘブライ語の語順は動詞-主語-目的語のVSO型だったが、後に主語-動詞-目的語のSVO型へ移行した[7]。
ヘブライ語の単語・文
ヘブライ語は、イスラエルでの日常会話に使われるほか、正しい聖書理解、ユダヤ教、ラビ文学を含むヘブライ語文学、ユダヤ音楽、セム語学、アフロアジア語学などに必須の言語である。以下には基本的なものだけを集める。
ヘブライ語の単語や文例の一覧;
感謝、有難う | todah |
ザクロ | רימון, Rimmon, Rimon (رمان ,رُمَّان, Rumman, Roman) |
ヘブライ語起源の言葉
- シェーハール šēkhâr: リンゴ酒、シードルの語源。また英語を経由してサイダーの語源ともなるが、日本語(和製英語)とアメリカ英語とイギリス英語で、それぞれ意味は異なる。
セフィラー: アラビア語の姉妹語を通じて、英語 cipher に繋がっている(アラビア数学の功績)
ハルマゲドン < ハル・メギッドー(メギッドー山)
ヘブライ語の文例
意味 | ヘブライ語 (ヘブライ文字表記) | ヘブライ語 (ラテン翻字) | IPA |
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ヘブライ語 | עברית | ivrit | [ivˈʁit] |
こんにちは | שלום | shalom | [ʃʌ'lom] |
さようなら | להתראות | lehitraot | [lɛhitʁʌ'ot] |
はじめまして | נעים מאוד | Na’im Me’od | |
お願いします | בבקשה | bevakasha | [bɛvʌkʌ'ʃʌ] |
ありがとう | תודה | toda | [to'dʌ] |
ありがとうございます | תודה רבה | toda raba | |
それを/あれを | את זה | et ze | [ɛt zɛ] |
いくつ?/いくら | ?כמה | kama? | ['kʌmʌ] |
これはいくらですか? | ?כמה זה עולה | Kama Zeh Oleh? | |
日本語 | יפנית | yapanit | [jʌpon'ɪt] |
はい | כן | ken | [kɛn] |
いや/ダメ/~しない | לא | lo | [lo] |
かんぱい | לחיים | le-chaim | [lɛ'xaim] |
おはよう | בוקר טוב | Boker Tov | |
お休みなさい | לילה טוב | Lailah Tov | |
どうしたの? | ?מה קורה | Ma Kore? | |
お元気ですか? | ?מה שלומך | Ma shlomcha? | |
良い | טוב | Tov | |
トイレはどこにありますか? | איפה השרותים? | Eifo ha-sherutim? | |
私は信じています | אני מאמין | āni maamīn | |
日本 | יפן | Yapan | |
東京 | טוקיו | Tokyo |
脚注
^ セファルディム式ヘブライ語 [ʕivˈɾit]; Iraqi [ʕibˈriːθ]; イエメン式ヘブライ語 [ʕivˈriːθ]; アシュケナジム式ヘブライ語の実際の発音[iv'ʀis]または[iv'ris]、厳密な発音[ʔiv'ris]または[ʔiv'ʀis]; 近代ヘブライ語 [ivˈʁit]
^ Sáenz-Badillos, Angel (1993). A History of the Hebrew Language. Cambridge University Press. ISBN 9780521556347. https://books.google.com/books?id=EZCgpaTgLm0C&pg=PA1.
^ H. S. Nyberg 1952. Hebreisk Grammatik. s. 2. Reprinted in Sweden by Universitetstryckeriet, Uppsala 2006.
^ ヘブライ語ラテン文字翻字
^ http://www.afpbb.com/articles/-/3127540 「イスラエル、アラビア語を公用語から外す法案を閣議決定」AFPBB 2017年05月08日 2017年6月21日閲覧
^ Amal Jamal (2006年9月). “The Culture of Media Consumption among National Minorities: The Case of Arab Society in Israel”. I’lam Media Center for Arab Palestinians in Israel. 2014年6月29日閲覧。
^ “Basic Word Order in the Biblical Hebrew Verbal Clause, Part 6 | Ancient Hebrew Grammar”. Ancienthebrewgrammar.wordpress.com. 2018^11-30閲覧。
参考文献
- キリスト聖書塾編集部編 『現代ヘブライ語辞典』 キリスト聖書塾 1984年(昭和59年)1月 ISBN 4-89606-103-9
- 橋本功著 『聖書の英語とヘブライ語法』 英潮社 1988年(昭和63年)10月 ISBN 4-268-00317-7
ギラード・ツッカーマン Zuckermann, Ghil'ad (2003). Language Contact and Lexical Enrichment in Israeli Hebrew. Palgrave Macmillan. ISBN 978-1403917232. http://www.palgrave.com/products/title.aspx?is=140391723X.
- “キリストが話した言語めぐり異論、ローマ法王がイスラエル首相に”. 24 June, 2018閲覧。
関連項目
- ヘブライ文字
- ヘブライ語のティベリア式発音
- アーメン
- ニクード
- タルムード
- シナゴーグ
- ハスカラ
- シオニズム
- エリエゼル・ベン・イェフダー
- ウルパン
- ウルパン・アキバ
- カバラ
- シャアル・ラマトヒール
- マイムマイム
- ヘブライ語アカデミー
外部リンク
- ヘブライ語アカデミー
ヘブライ語ってどんな言葉? 株式会社ミルトスのページ- ヘブライ語のページ
- ヘブライ語オンラインガイド
Ethnologue report for language code heb (英語) - エスノローグ