アウトリガーカヌー
アウトリガーカヌー (Outrigger canoe) は、南太平洋などで用いられるカヌーの一種。安定性を増すために、カヌー本体の片脇あるいは両脇にアウトリガーとも呼ばれる浮子(ウキ)が張り出した形状をしている。この浮子は多くのポリネシア諸語やミクロネシア諸語でama(アマ)とよばれ、これを装備したアウトリガーカヌー自体はタヒチ語ではヴァア (va'a) 、ハワイ語ではワァ (wa'a) 、マオリ語ではワカ (waka) 、ヴァカ (vaka) などの言葉で呼ばれる。
目次
1 起源
2 分布
3 形状
4 参考
5 注
6 参考文献
起源
アウトリガーカヌーの起原はよくわかっていないが、オーストロネシア語族の拡散とともに広がっていったことは確かである。中国で発達したいかだから発展したという説、丸木舟から発展したという説があるが、史料が乏しいのでいまだ定説は無い。ともかく、丸太を刳り抜いた刳り抜き船や、丸太を刳り抜いて艫や舳先、舷側を追加した準構造船にアウトリガーを装着した形式の船舶が、東南アジア島嶼部で発達していったことは確かである。
分布
東南アジア島嶼部で主に用いられていたのは、船体の両サイドにアウトリガーを取り付けたダブル・アウトリガーカヌーである。このタイプはインドネシア、フィリピン、マレーシアなどを中心に現在でも広く使われている。
ここからアウトリガーカヌーはオーストロネシア語族と共に、西はアフリカ沿岸のマダガスカル、東は南米沿岸のラパ・ヌイ(イースター島)まで広まった。
形状
外洋航海が盛んになる過程で、ウネリによる破損を防ぐためにアウトリガーを片側だけにつけたシングル・アウトリガーカヌーが考案されたと推測される。ダブル・アウトリガーカヌーの場合、波のウネリの間で両方のアウトリガーが持ち上げられると、腕木に宙に浮いたカヌー本体の重量がかかって、腕木が破損してしまう。シングル・アウトリガーであれば全体が傾くだけで、破損につながるような負荷がかからない。また、東南アジア島嶼部からメラネシア、ミクロネシア、ポリネシア方面へは、貿易風に逆らって進むことになるが、ダブル・アウトリガーカヌーはタッキングやシャンティングなどの風上航走を苦手としており、実用的ではない[1]。
現在、シングル・アウトリガーカヌーは、航海カヌーとしてはミクロネシアおよび域外ポリネシアの一部で使用されている。また、パドリングによって進むシングル・アウトリガーカヌーは、ミクロネシアおよびポリネシア各地で使用されている。近年では、シングル・アウトリガーカヌーによるレースも盛んに実施されており(フランス領ポリネシアのフアヒネ島で行われている世界最大のカヌーレースと言われるハワイ・ヌイ・ヴァアでは3日で約128kmを漕ぐ。)、競技用のシングル・アウトリガーカヌーの規格としてOC-1、OC-4、OC-6などがある。
また、人類がリモート・オセアニア海域に拡散していく過程で、より大きな浮力を確保し、長期間の航海に対応できるようカヌー本体を左右に並べたダブルカヌーがポリネシア文化において考案された結果、ポリネシア人の航海術は急速に発達し、ハワイ(Hawaii)、イースター島(Rapa Nui)、ニュージーランド(Aotearoa)のポリネシアン・トライアングルと呼ばれる広いエリアに移住していった。ダブルカヌーを祖先とするカタマランタイプの船体は、近代においてもヨットや連絡船など、様々な用途にあわせて発達している。
アドミラルティ諸島のシングルアウトリガーカヌー
トンガの「パオパオ」
競技用アウトリガーカヌー
OC-1と呼ばれる競技用アウトリガーカヌー。このような艇で外洋を数十キロも漕ぐ大会も行われている。
参考
19世紀にイギリスのクックが太平洋を探検した時、太平洋に浮かぶ孤島に同じ言語を使う人々が暮らしていることを発見し、これらの島民がどのようにしてこれらの島に住み着いたのかが謎とされた。海に沈んだアトランティス大陸の伝説と重ねる説もあったが、デヴィッド・ルイス、リチャード・ファインバーグ、ベン・フィニー、ミミ・ジョージらの研究により、アウトリガーカヌーやダブル・カヌーに乗り、気象や海流、星空などだけをたよりに何百キロも航海する技術(スター・ナヴィゲーション、ウィンド・コンパスなど)の存在が明らかにされて来た。
注
^ 実際のダブル・アウトリガーカヌーで検証すると風上側への方向転換や帆走には全く問題がないとも言われている。通常のダブル・アウトリガーカヌーは、両サイドのアウトリガーが同時に水に接することはない。
参考文献
片山一道『海のモンゴロイド』
後藤明『海を渡ったモンゴロイド』
Tommy Holmes, Hawaiian Canoes
大内青琥『おじいさんのはじめての航海』