ヤクザ






5代目浅草高橋組のメンバー。日本の暴力団の一つ住吉会の傘下の組である。


ヤクザとは、組織を形成して暴力を背景に職業に犯罪活動に従事し、収入を得ているものを言う。この偏倚(へんい)集団を特徴づける要因の一つに集団内部の「親分子分」の結合がある。また下っ端に該当する場合は「チンピラ」と称される。


大辞泉は「やくざ」について次の2通りの説明を示す[1]



  1. 役に立たないこと。価値のないこと。また、そのものや、そのさま。「―に暮らす」「―な機械」「―仕事」


  2. ばくち打ち・暴力団員など、正業に就かず、法に背くなどして暮らす者の総称。「―渡世」



「やくざ」研究の古典的名著とされる岩井弘融の『病理集団の構造』の序説で「親分乾分(岩井は故意に、乾としている。読みは「こぶん」で同じ)」の関係は民俗学(柳田國男他)や社会学(川島武宜他)において説明されるところのオヤカタ・コカタの関係と共通の社会的基盤を持つと説明している。


戦後に来日したニューヨーク・ポストの特派員ダレル・ベリガンは、その著作で有名な『やくざの社会』の中で「日本の家族は与太者の集まりであり、家族の長は与太者の長である」という文から始まる、日本社会の内部構造についての報告をまとめている。また、かつて横浜の塚越一家に所属した右翼活動家の野村秋介は、「やくざ」について説明する際に「やくざとは職業ではなく」、「実業家、ジャーナリスト、政治家にもやくざは存在する」と発言したが(出典:『暴力団新法』)これも個人間の繫がりとして絶対的権威(親分)と追随者(子分)の関係が広く社会で見られる点を示唆するものである。ただし、その上で「やくざ」を特徴づけている別の内部要因として、集団の共通目的、成立の社会的条件、存続のための経済的活動、社会的価値基準から逸脱した副次文化等がある。ジャーナリストの朝倉喬司は明治の自由民権運動と「やくざ」の関連を指摘する一方で現代の制度的空間や価値基準との関連において「暴力団」と呼ばれるとしている(出典:『ヤクザ』)。




目次






  • 1 語源


  • 2 変遷


  • 3 呼称


  • 4 名称


  • 5 米国による金融制裁


  • 6 作品中でのヤクザ


  • 7 大指定暴力団


  • 8 脚注


  • 9 参考文献


  • 10 関連項目





語源






明確でないが、賭博用語が語源であるとする説が通説である。


江戸時代の風俗を示した喜多村信節 著 『嬉遊笑覧』における言語の項に







博徒の言葉にして常人のつかふべき詞にあらず今は天下の常語となりぬ物のあしきをやくざといふは博奕に三枚というふものをするに

八九の数を高目上々にして十をつまるは数にならず八九三廿につまる故悪きことの隠語を八九三といひ始めたるなり(中略)

博徒の詞常語に数多くありと(中略)数目の詞は大かたそれなるべし




と記されている[2]


同書では出典は『渭濱庵随筆』と記されているが、宝暦5年(1755年)の序のある新井白蛾『牛馬問』に同一文章があり、白蛾の亡父が「ヤクザ」という語を新言葉の一つとして語ったことが記されている[3]


花札を使った三枚(またはおいちょかぶ)という博奕では、3枚札を引いて合計値の一の位の大小を競う。8・9の目が出れば17となり、一般的な常識人にとっては“7”の場合「もう一枚めくる」ことはしないのだが、投機的で射幸心が強く、且つ非常識な輩は そこで「一か八かで、もう一枚を引く」。その結果で“3”を引き、最低の得点である“0”(8+9+3=20)となる。それに例えて、行動パターンや人生設計を「物賭け的に挑戦する者の生き方」を象徴的に表現していた。


8・9・3を続けて読んだ「ヤクザ」が、世間的に「『敗者、失望者、失墜者』が、『反社会的な意識を持って(苦労をして稼ごうとの世間体に負けた者)』を、意味する」ようになり、それが転じて博徒集団のことを指すようになったとする。さらに一部の地域では8・9・3のブタだけは、「勝負なし」とのルールを採用しており、そこに由来すると主張する博徒の親分もおり、本居宣長ら江戸時代の学者も、その説を取り上げている。




他にも、歌舞伎役者の派手な格好を真似た無法者(傾(かぶ)き者)のことを「役者のような」と言っていたことから「ヤクシャ」が訛って「ヤクザ」になったという説、「役戯れ」(やく ざれ)から来たという説、「やくさむ者」からとの説、さらに別枠で「その昔に喧嘩などの仲裁を行う者を「役座」と呼んだことに由来する」との説(飯干晃一)もある。また、儒教において数字の8・9・3は悪数(忌み数)と定めていることから、そこに由来するとの説もある。


他説では、博徒集団の『貸元、若頭、舎弟頭』の三役(サンヤク)の隠語とも言われる。



変遷


本来ならばやくざは、『風来坊、根無し草(定住先が無い者)、渡世人、無頼漢、ごろつき、不良』等と同義で、そのような生き方をする者達を指した。その意味では、生業を指す「博徒」と「的屋」(香具師)とは、微妙なずれがある。ただし博徒・的屋にやくざ者が多いのが事実であって、戦後に暴力団という言葉が一般になると、主に暴力団の構成組員を意味するようになった。


一般的に博徒よりも的屋の方が起源が古いとされている。博徒の起源は平安時代で、任俠の徒“俠客”の起源は室町時代とされ、「渡世人」とも呼ばれた。的屋は「香具師」とも称する。江戸時代、征夷大将軍によって、「賭博は、重犯罪」として厳しい取締りがあったが、江戸中期以降に賭博を常習的に行う博徒集団が現れ、現代に至っている。一方、的屋は「非人身分」とされていた。江戸時代には寺社の境内などで賭博を催し収入(いわゆるテラ銭)を得ていた。都市部だけでなく、地方にも存在する。現在に至るまで「社会枠組の外」となる人々である。


また、ヤクザよりも、やや広い、より合法的な性格を持った「顔役」と呼ばれる者もいた。いわゆる俠風に富んだ「男」としてある種畏敬を持って迎えられ、「その人のためなら命をも惜しまぬ」という子分を多数従え、地域社会に隠然とした力を持ち、その中に公然と代議士に成る者もいた。昭和初期のある新聞に「親分議員列伝」として、近代ヤクザの鼻祖とされる吉田磯吉などの名が上がっている。吉田磯吉や、その系列に属する初期の山口組は、古典的な意味でのヤクザでなく、それゆえ旧来の伝統的な稼業に拘ることなく、いち早く現代的な暴力団に変貌していったといえる。


ジェイク・エーデルスタインはその性質に着目したうえで次のように説明する。



...ヤクザ。彼らはイタリアの親戚達に比せば紳士的な傾向にある。窃盗や武装強盗などの街頭犯罪に着手することは通常はない。同業者すなわちヤクザ同士の抗争というならばそれはしばしば発生するものであるが、彼らが一般大衆を攻撃対象とすることは極めて稀である。...[4]



1922年(大正11年)2月17日付中外日報に「代議士武勇列伝」と題するコラム記事が出ている。


「武勇列伝とは余り酷だ、我々だって武を標榜して選良になった訳じゃない、文に依って生きんとして選良になったと云うのに…とは昨日の衆議院の二階廊下で中島鵩六さんがあの大きな太鼓腹を突き出しての仰せであった。で、次は野党側へと眼鏡を向けよう……まあず野党の議席を見渡して何時も金仏様のように黙然と控え、然も一朝事あるときは何事かを引起さん面構えをしているのに吉田磯吉親分がある。磯吉親分は、人も知る炭鉱太郎として九州に大縄張りを持ち、今幡随院の名さえある人だけに、勇に於いては、他に匹敵する人はあるまいと云うから、未来の選良になろうとする者の好典型だろう。……続いては、臨時議会の時、国勢院総裁小川平さんを速記台下で殴り飛ばそうとして、一大波瀾を捲起した三浦郡の大親分小泉又次郎さんで、一肌脱げば倶利伽羅紋々の凄い人である。……」


親分議員が吉田磯吉一人ではなく、与野党に数多くいたことがこのコラム記事から理解できる。この時代の政界には、「暴をもって暴を制す」理論が公然とまかり通っていたわけで、まさに政治家たるものは「腕前がなければならぬ」のであったと纏められている。[5]



呼称






多くのやくざは「暴力団員」という呼ばれ方を嫌い[6]、「極道」、「俠客」などと自称することがある。逆に自ら「俺は、暴力団員だから…」などと表現する者もいるが、その場合において相手に脅迫(強迫)を行ったとも解せることがあるため、通常ならば「組の者」あるいは「団体の者」などと表現する。


「やくざ」という単語は伏字処理が施されたり、隠語や別の表現に置き換えられる事例が多く見られる。石原裕次郎の楽曲『嵐を呼ぶ男』を2010年に舘ひろしがカバーした際に原曲の「やくざな……」が「やんちゃな……」に改変されたのが代表的な例である。


『やくざ』を指す隠語・別称には「ヤー公」「ヤーさん」「やっちゃん」「や印」「『や』の付く自由業」「『や』の付く怖い人」「その筋の人」「あちらのかた」「渡世人」「稼業人」「筋者」「本職」「怖い人」「不良」「現役」「プロ」「ヤー」「893」「輩」「構成員」「やくまるさん」「ヤクザ屋さん」、頬骨から顎先までを指でなぞり「これもん(Scarface:傷、痘痕のある顔を表現する)」などがある。


また、主に警察などで使われている「マル暴」などもある。宅急便などの配送会社では、「マル特」などと呼ばれ警戒されている。また、ヤクザ同士では、組長を「親」「親分」、組員を「兄弟」と呼ぶことが多い。特定の暴力団にアルファベットで内部分類コードを付けて「マルB(暴力団)」あるいは「マルG(極道)」などと呼ぶこともある。



名称


江戸時代までの多くは屋号が用いられていた。例えば清水次郎長は「ヤマチョウ」、会津小鉄の一門は「大瓢箪」。一家を名称とするのは、明確ではないが明治・大正期に多く使われている。的屋の影響と推察されるが明確ではないし内務省の係がつけた可能性もある。明治の『東海遊俠伝』では次郎長を漢語で「大哥」と呼んでいるが中国でも目上の人や親分には「哥」を附ける。日本語のイメージでは親分ではなく「兄貴」あたりであろう。1884年(明治17年)の「大刈込み」(賭博犯処分規則により賭博犯すなわち博徒は裁判なしで10年の懲役が課される)への対策として博徒の多くは土木建築請負の看板を上げ「組」を名乗るようになった(鶴見騒擾事件より)。



米国による金融制裁


バラク・オバマ米国大統領は2011年7月25日、初の「国際組織犯罪に関する戦略」を発表するとともに、日本の「ヤクザ(暴力団)」を、薬物取引や人身売買に関与する「国境横断的犯罪組織」に指定し、国際緊急経済権限法に基づき金融制裁を科す大統領令に署名した。これにより、米国内にある日本の暴力団組織の資産は凍結される。また、アメリカの個人や団体が日本の暴力団と取引を行うことは禁止される。大統領令では個別の暴力団名などは挙げられていないが、米財務省は、「ヤクザ」の人数は2011年時点で約8万人としている。同省は、ヤクザが覚醒剤を中心とする薬物取引を主要な収入源としていると指摘。東アジア諸国の犯罪組織と連携して武器密輸や売春、人身売買などの犯罪行為を行っているほか、隠れみのとなるダミー企業を使って建設・不動産・金融業などに進出して不法収益を上げる「知能犯罪」を展開し、米国内でも薬物密売や資金洗浄に関与しているとした。



作品中でのヤクザ


現在では、『やくざ (Yakuza)』という言葉を理解する他国民も多い。テレビゲームでも、アメリカ製の『グランド・セフト・オートシリーズ』に日系人のマフィアが「ヤクザ」の名称で登場していたり(シマ、若頭といった日本語も使用されている)、日本製の『龍が如く』が日本国外で『Yakuza』というタイトルで販売されたとの例がある。北野武監督のヤクザ映画も日本国外で人気が高く、ヤクザの知名度を上げる一つの要因になっている。アメリカンコミック『X-メン』シリーズには、日本人でヤクザの親分という設定のキャラクター、シルバー・サムライが登場する。。



大指定暴力団




























団体名
説明

代紋

山口組

山口組(やまぐちぐみ[7])は、日本の兵庫県神戸市に本部を置く暴力団で、日本最大規模の指定暴力団[8]。組員数は約14,100人(構成員6,000人、準構成員数は約8,000人)[9]。山形県と広島県と鹿児島県と沖縄県を除く43の都道府県に系列組織を置いている(2016年末時点)[10]。住吉会、神戸山口組、および稲川会とともに国家公安委員会から主要暴力団に位置づけられている[9]

Yamabishi.svg

住吉会

住吉会(すみよしかい)は、東京都港区赤坂に総本部を置く博徒系指定暴力団である。米政府より薬物や武器の密輸、人身売買等の犯罪に関与する国際犯罪組織と認定されている[11]。勢力範囲は1都1道1府15県[9]、構成員は3,100人で準構成員等を含めると約6,600人(2016年12月時点)[9]。六代目山口組、神戸山口組および稲川会とともに公安委員会から主要暴力団として位置づけられている[9]

Sumiyoshi-kai.svg

稲川会

稲川会(いながわかい)は、東京都港区六本木に総本部を置く日本の指定暴力団。六代目山口組、住吉会および神戸山口組とともに公安委員会から主要暴力団として位置づけられている[9]

稲川会代紋.png

会津小鉄会

会津小鉄会(あいづこてつかい[12])は、京都府京都市下京区に本部を置く指定暴力団。構成員は2016年末の時点で約110人[13]

Aizukotetsu-kai.png


脚注


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  1. ^ 『やくざ とは』 コトバンク


  2. ^ 喜多村信節『嬉遊笑覧. 下』成光館出版部、1932年 5版、364頁より引用 国会国立図書館デジタルコレクション 


  3. ^ 新井白蛾『白蛾叢書. 第2冊(明治32年)』所収『牛馬問』巻之一、国会国立図書館デジタルコレクション 


  4. ^ "The Last Yakuza" 2010年8月3日 World Policy Institute (英語)


  5. ^ 猪野健治の著書「侠客の条件 吉田磯吉伝」95-96頁


  6. ^ ヤコブ・ラズ『ヤクザの文化人類学:ウラから見た日本』岩波書店 1996年、ISBN 4000023179 pp.194-197.


  7. ^ 『Police of Japan 2011, Criminal Investigation : 2. Fight Against Organized Crime』 2009年 警察庁 (英語) ― p.21 “ヤマグチグミ”(Yamaguchi-gumi)


  8. ^ 『山口組(ヤマグチグミ)とは』 デジタル大辞泉 - コトバンク

  9. ^ abcdef『平成5年度警察白書 第1節 暴力団の実態』 1993年 警察庁


  10. ^ 『山口組分裂、有力団体が脱退 新組織結成か、抗争警戒』 共同通信 2015年8月27日 ライブドアニュース


  11. ^ 米、住吉会を経済制裁対象「ヤクザ」2例目


  12. ^ 『Police of Japan 2011, Criminal Investigation : 2. Fight Against Organized Crime』 2009年 警察庁 (英語) ― p.21 『ロクダイメ・アイズ・コテツカイ』(Rokudaime Aizu Kotetsu-kai)


  13. ^ 『平成28年における組織犯罪の情勢』 警察庁(2017年)




参考文献



  • 猪野健治『やくざと日本人』1973 三笠書房・1993 現代書館・1999 筑摩書房


関連項目











  • 悪党

  • 賭場荒らし

  • 賭博


  • 反社会的勢力 - 総会屋 - 暴力団

  • 石原伸司

  • チンピラ

  • 絶縁

  • 破門

  • ヤクザ映画

  • 不良集団

  • マフィア


  • 仁義なき戦い - やくざ同士の抗争を題材にした映画。


  • 吉本新喜劇 - 吉本興業の演劇コメディ。ほとんどの作品にやくざ(借金取り)が登場する。


  • とんぼ - 長渕剛主演のテレビドラマ。


  • オルゴール - 長渕剛の初主演・原案による映画(1989年公開。監督・脚本: 黒土三男)。


  • 昭和鉄風伝 日本海 - 浜田雅功主演の映画。

  • アウトロー

  • 龍が如く


  • アイヤール - イスラム社会における任侠の徒。




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